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脳と言語

山鳥重

本書は3部構成からなり、第1章でことばについての基本的な捕らえ方を述べ、第2章で脳障害に起因する言語障害について詳しく解説がなされ、第3章でことばを窓として心をどのように捉えるかについて著者の考えが述べられている。

第1章は、簡潔に「ことば」の捕らえ方を述べている。あくまで本題に入る前の前座的な役割をしているので、言語学を研究している場合、少し不満が残るかもしれない。この部分だけでも、一大研究分野だから、あくまで本題の前の下ごしらえとして捉えるのが良いでしょう。

本題は第2章。著者の専攻は神経生理学だから当然と言えば当然だが、脳と言語障害の関係について詳しく(と言っても、新書レベルで)述べられている。脳と言語の関係を研究対象とするならば、読んでおくべきでしょう。もちろん言語障害の種類によって、脳地図のどこで障害を起こしているのかを知ることも重要だが、それ以上に、本書で勉強になるのは、言語活動を単語や文法のレベルではなく、実際的なコミュニケーション活動として、複雑なシステムとして考え、言語領域以外にも言及しているところだろう。筆者の表現を借りれば、言語領域だけを取り扱う「基本問題」とコミュニケーション内で言語を捕らえる「応用問題」の区別が大事だということだろう。

第3章は、心についての著者の考えが述べられている。夏目漱石の「意・知・情」から始まり、それらをどのように脳科学で捕らえるかとい展開。心がのどこにあるのか、そして、心を持つ主体である人間が、心を研究対象とできるのかについて考察されている。個人的にはこの部分が知的好奇心をそそられた部分。

全体としては、前提知識なしでいきなり読むには難しい本かもしれないが、言語や脳に興味があり、すこし関連書を読んだことがあれば、十分に楽しみつつ勉強できる本。