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研究者という職業

著者は社会科学と工学にまたがる領域を対象にする、この道50年の研究者です。この2つの領域にまたがって研究してきた著者が、理系・文系に関わらず研究者という職業に求められる姿勢や適正を考察しています。研究者となる院生や若手研究者、そして、もちろん現在活躍中の研究者も得るところが多い書であると思います。

私が本書でまず学んだことは、著者が繰り返し述べている「流行の研究テーマに惑わされない」ということです。著者は、その理由として,流行のテーマは本当の秀才や天才が集まる非常に競争の激しいものであり、凡才が取り組むには荷が重いということを挙げています。さらに、研究者は自身の得手・不得手を認め、自分に適した研究テーマに絞って研究することを述べています。言うならば、流行のファッションは、モデルやスタイリストに任せておいて、自分は自分の好きな服を着るということが大事だということでしょう。自分の体型や肌の色、髪型を知って、自分に似合う服装に気がつくように、結局、自分のことを良く見るとこで、自分の研究したいこと、そして、研究できることは決まって来るということではないかと思います。

次にタイトルにも記されている「研究者という職業」そのものについて、著者は、ResercherやSicentistではなく、"Research worker"と言う英語が適していることを述べます。このResearch workerには、次のような含意があることを示しています。

自身の身体を積極的に動かして、研究という知的な仕事に直接にぶつかってゆく仕事師 (p.58)

これは、まさにその通りだと思います。もっと言うならば、研究者とは格闘家でありさえすると感じます。自分の目の前にある他の誰かが書いた研究論文と格闘し、実験データと格闘し、そして、自分と格闘しながら自身の研究論文を書いて行く。自分自身が体をフル回転させてようやく研究が成り立っていると思えるからです。もちろん、より良く体をフル回転させ、より多くのこととより深く関わっていくためにはそれ相応の技術がなければなりません。つまるところ、研究者というのは、格闘家が日々体を鍛え、技の鍛錬をするように、日々の身体的かつ精神的な努力を怠ってはならないということでしょう。

本書は、ここの挙げた2点以外にも多くのことを示唆してくれる良書です。大学院以上の方は読んでおくべきでしょう。